塩基配列解析

塩基配列解析 その1

  • 塩基配列。かつてはアイソトープを使い、ATGCそれぞれの反応産物をゲルに流し、職人的ともいえる技で薄く長いゲルをろ紙に貼り付け、X線フィルムに焼きつけたラダーを達人の技で読んでいました。その頃に比べると、信じられないほど簡単にシークエンス反応ができるようになりました。さらに、キャピラリ電気泳動の登場によってゲル作りと終わった後のゲル板洗いからも解放されました。しかし、昔とかわらず、シークエンスがうまくいかないことが今でもあります。今回は実際にあった、“簡単な工程を入れるだけでシークエンスが読めるようになった話”をします。当バンクでは複数メーカーのシークエンサーを使っていますが、今回はその中のキャピラリ方式のシークエンサーを使いました。
  • 大きさ46kbのコスミドベクターに、ある遺伝子2kbをクローニングし、インサートDNAの配列を確認すべくベクター側からのプライマーを用いてシークエンスをしました。前後両方向読もうとしたのですが、後ろからのシークエンスは読めたのに、前からのシークエンスは全く読めませんでした。Raw dataを見てみると、シークエンスの反応自体がうまくいっていない様子。
  • はじめて使用するプライマーだったため、ベクターとプライマーの相性が悪くて反応がいかないのではないか?伸長反応に問題はないか、成功した後側からのプライマーと失敗した前側のプライマーで、シークエンスに用いたコスミドを鋳型にPCRをかけてみました。すると、インサートのサイズのバンドが増幅されたきれいなシングルバンドが見え、量も充分に増えました。プライマーの相性は問題なく、また内部に走り辛い配列もなさそうです。
  • GCリッチの場合、DMSOを1%加える手法が知られていますので、試してみました。シークエンスのシグナルは出るようにはなったのですが、全体にピークが乱れ、塩基間のシグナルの分離がうまくいかず読めませんでした。
  • 次に、「Pre-heat」を試してみました。、Template DNAと水のみであらかじめ熱し、on iceで急冷する工程です。その後、プレミックス(酵素、dNTPS 、反応バッファーなど)とプライマーを入れます。通常は、最初に全ての材料を加え反応液を調製し、サーマルクライマーで反応をかけています。実はこの工程はシークエンサーメーカーの添付マニュアルに書いてあったのですが、他社のシークエンス試薬の説明書にはなく、今までシークエンスを読むのに不自由を感じていなかったため、「Pre-heat」は行わず反応させていました。しかし今回は、後ろは読めたのに前が読めない、プライマーと鋳型の相性は問題なさそう、そしてDMSOの効果も思わしくない。もしこれが効いたら…と、半信半疑で試してみました。
  • Template DNAと水のみでpre-heat(96℃ 3分→on ice)その後、プレミックス(酵素、dNTPS 、反応バッファーなど)とプライマーを入れサーマルクライマーで反応させました。反応条件は通常行っている通り、96℃ 20秒-63.4℃ 4分×50サイクルで行いました。
  • その結果、「Pre-heat」を挟んだだけで、読めなかった前側プライマーでコスミドのシークエンスがきれいに読める様になりました!なぜか読めないクローンをお持ちで、「Pre-heat」を行っていない場合は是非試してみて下さい。クローンの全長が10kb以下のプラスミドDNAの場合、pre-heatは96℃ 1分程で良いようです。(K.I.)
    (Mail News 2005.10.02 掲載記事より)

塩基配列解析 その2

  • 困ったことになりました。市販のT7 プライマーでシーケンス反応をかけてみたけど、全く反応が進んでない様子。プライマーのチューブには確かにT7 primer と書かれている。ベクターのマップには確かにT7 promoter と書いてあるしプライマーサイトもアンダーラインで明示されている。しばらく前に別のクローンを解析した時は、問題なく配列が読めたのに、どうして?
  • そこで、何社かのカタログを開き、市販のプライマーとベクターの配列を調べてみました。
    • プライマー配列
      5′ GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG CGA 3′ T7HT Toyobo
      5′ GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG C 3′ T7 22-mer Stratagene
      5′ TA ATA CGA CTC ACT ATA GGG 3′ T7 Promega
      5′ TA ATA CGA CTC ACT ATA GGG 3′ T7 Takara
      5′ TA ATA CGA CTC ACT ATA GGG 3′ T7 Novagen
      5′ A ATA CGA CTC ACT ATA G 3′ T7 17-mer Stratagene
    • ベクター配列(T7 近傍)
      5′ TGA GCG CGC GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG CGA 3′ pBC KS
      5′ TTG GCT GCA GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG CTC 3′ pBD-GAL4
      5′ CAG TGA ATT GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG CGA 3′ pBK-CMV
      5′ CAG TGA ATT GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG CGA 3′ pBluescript SK
      5′ TGA GCG CGC GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG CGA 3′ pBluescriptII SK
      5′ CGC GGC CGC GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG CGA 3′ lambda DASHII
      5′ CCG CGA GCT CTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG CGT 3′ lambda FIXII
      5′ TTA TCG AAA TTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG AGA 3′ pCDNA3
      5′ CAG TGA ATT GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG CGA 3′ pCITE
      5′ CCC GCG AAA TTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG AGA 3′ pET3
      5′ CCC GCG AAA TTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG GAA 3′ pET15b
      5′ CCC GCG AAA TTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG GAA 3′ pETBlue-1
      5′ CAG TGA ATT GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG CGA 3′ pGEM-3Zf+
      5′ CGC CAA GCT CTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG AAA 3′ pSport1
      5′ GGA CCG AAA TTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG GAA 3′ pTriEx-1.1
      5′ CGC CAA GCT CTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG AAA 3′ pT7Blue
      5′ CGC CAA GCT CTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG AAA 3′ pTZ19R
  • こうやって眺めてみると、T7 プライマーと呼ばれているプライマーの間で配列が異なっていることが分かりますし、ベクターのT7 プライマー領域の配列にも違いがあることが分かります。さらに、プライマーの5′ や3′ の配列がベクターとマッチしない組み合わせがいくつかあります。特に、3′ ミスマッチの組み合わせでは、シーケンス反応がうまく行かないだろうことは容易に想像できます。
  • 有名なプライマーと有名なプライマー領域ですが、ただ「名前」という情報だけで判断するのでなく、そのプライマーとベクターの組み合わせが自分の実験に適しているかどうか、いま一度、「配列」も見直すことをお勧めします。(T.M.)
    (Mail News 2006.03.25 掲載記事より)
  • (MAN0003j 2005.10.02 T.M.)

    2020.02.22



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