プラスミドの取扱い

プラスミドの増幅について

■ プラスミドが増えたり増えなかったりという経験はありませんか?3 mL の少量培養ならDNA がとれるのに、それを大量培養するとプラスミドの収量がとても少ない。同じ問題は、あるプラスミドクローンのovernight culture を培養し直した時に起こりました。全くDNA が無いわけではないのですが、大量培養にしては量が少ない。しかし、overnight culture そのものではプラスミドDNA がある程度は取れている。前培養をするとDNA の収量が減る。それはなぜか?もしかしたら、いったん菌が増えきったらプラスミドが脱落していくのではないだろうか?
■ そう考えて、log phase で増やし続ければ問題は起きないのではないだろうか、という前提のもとで実験しました。

  • 08:00、プレートのsingle colony を4 mL の培地に植え付けました。
  • 12:00、そこから100 ul ずつ5本の2 mL 培地に植えました(前培養)。
  • 13:30から1時間おきに、それぞれから100 ul 取り、2 mL の培地に植えました(本培養)。 前培養3.5時間で菌の増殖は最大に達しました。
    植え付けた時刻とその時のOD は、
    1 13:30 0.255
    2 14:30 0.680
    3 15:30 0.792
    4 16:30 0.840
    5 17:30 0.799
  • 23:30、それぞれからDNA を調製しました。(ゲルイメージ参照)

NWL050730
■ 前培養の増殖が最大に達した菌(4と5)を植え付けた場合は、増殖途中の菌を植え付けた場合(1から3)に比べ、DNA の収量が少なくなりました。このとから、増殖しきった前培養を植え付けた場合は、DNA の収量が少なくなることが分かりました。
■ DNA 調製のための大腸菌培養時間に違いがありますが、一番遅く植え付けた場合でも6時間の培養時間があります。12:00にはじめた前培養は、本培養と同じく100 ul を2 mL の培地に植えていますが、3.5時間で菌の増殖が最大に達していますので、6時間の培養時間は、菌の増殖に十分な時間を経過していると思います。従って、菌の増殖の差がDNA の収量に反映されたわけではないと考えています。
■ プラスミドを大腸菌から調製する場合、菌は増殖させ過ぎずにDNA を調製することが大切であることが分かります。もちろん全ての場合にあてはまるわけではありませんが、いつもうまく行くDNA 取りが急にうまく行かなくなった場合には、このお話を思い出して下さい。(TM)
(Mail News 2005.07.30 掲載記事より)

プラスミドの増幅について (2)

■ 入手したプラスミド DNA を形質転換した菌が増えない、という相談を受けました。こういう時には、たいてい、そのプラスミドの宿主として本来指定されている大腸菌系統以外の系統にプラスミドを導入したか、あるいは、プラスミドの薬剤耐性遺伝子を間違って本来でない抗生物質を含む培地で培養した場合が考えられます。また、本来の正しい抗生物質を含む培地であっても、コンピテントセルと DNA を混ぜた後、寒天培地に播く前に抗生物質を含まない培地中で 30 分程度培養しないと、形質転換効率が低下することがあります。そのような可能性がないかたずねましたところ、抗生物質は正しく使っているし、プラスミドのための特殊な菌株の指定もない。菌はちゃんと生えている、という答えです。
■ あれあれ?最初の質問は菌が増えない、ということだったので、菌が生えないのかと思っていました。菌は生えている、と言っているのだから、もしかしたら、菌は増えるのに、プラスミドの収量が少ない、と言いたいのだろうか。そう思い、バンクホームページ、ラボマニュアルの Technical notes #01 の「プラスミドの培養について」を紹介しました。そこには、「前培養が長いと、菌は増殖してもプラスミドが増幅されない」ということが書かれています。
■ ところが、これも違うということでした。つまり、入手したプラスミド DNA で形質転換した直後の大腸菌は、寒天培地の上でコロニーを形成している、ということ。問題はそのあとで、コロニーをピックアップし、液体培養で大腸菌を大量に得ようとしても、菌が全く増えていない、ということです。それならば、抗生物質を間違えているか、抗生物質の濃度が濃すぎるか?あるいは、寒天培地上では生えて液体培地では生えないということは、液体培養でエアーレーションが上手くいっていないのか?そういう可能性を考えて、2 mL培養で、抗生物質の濃度を変えて何本か培養してはどうか、と勧めました。
■ さあこれで、菌が増えてくれるだろう、と思いきや、抗生物質の濃度を低くしても、さらには抗生物質を全く入れていない培地でも菌そのものが増えにくい、というお答え。もしかして、もとのDNAにファージでも混入しているのでは?そういう理由で、形質転換してすぐの大腸菌コロニーは得られても、それから培養を重ねた菌は育たないのでは、と思い、次のようなことを勧めました。
1.入手したDNAで大腸菌を形質転換し、寒天培地上に生やす。
2.そこに TE あるいは PBS をたらし、寒天培地上の菌を回収する。
3.回収した菌から、通常通りプラスミドDNAを調製する。
4.その調製したDNAをさらにフェノール抽出して精製する。
5.その精製したDNAで新たに形質転換した大腸菌を寒天培地上に生やす。
6.寒天培地上のコロニーから液体培養する。
■ このやり方は、見事に的を得、無事、プラスミドDNAを大量調製できたそうです。(T.M.)
(Mail News 2007.08.04 掲載記事より)



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