RIKEN BioResource Center DNA Bank Mail News (電子メール版)

*********************************************************
RIKEN BioResource Center DNA Bank Mail News (電子メール版)
https://www.brc.riken.jp/lab/dna/ja/news/news.html
*********************************************************
購読の中止は、末尾の「メールニュースの配信について」をご覧下さい。
個人情報の取扱いについては、下記に詳細がありますので、ぜひ、御一読ください。
https://www.brc.riken.jp/inf/distribute/inform.shtml

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■ バンク雑記
■ DNAバンクのちょっとした話し
■ 論文紹介
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
========================================================
■■■ バンク雑記 ■■■
========================================================
■ 私は「研究者」であると同時に「バンク事業人(バンカー)」です。このバンカー精神として大切なのが「ロジスティクス」という考えです。一般的には「物流管理」という意味で使用されるようになってきましたが、一般の人にはなじみの薄い言葉です。「ロジスティクス」は元来軍事用語であり、語源はフランス語の「logistique」(宿営という意味)に由来します。バンク事業の基本思想もまた軍事政策と同様に(1)情報機能と(2)ロジスティクス機能にあります。つまり、情報機能により情勢を冷静かつ正確に把握し、ロジスティクス機能により実際の実現の可能性を検証し、物質的支援を行います。
■ 情報機能とは情報の収集、蓄積、分析であり、ロジスティクス機能とは物理的資材の必要量、調達、配分の可能性の分析及び必要物材の調達、施設の整備、蓄積、配分の実行です。この両者の機能なくして「戦略」は成り立ちません。バンク事業はこの(1)、(2)の機能を必要とします。
■ 歴史的には米国の軍隊では、陸、空、海の三軍を統合して一人の指揮官のもとに置く総合軍がこの「ロジスティクス」を受け持っています。湾岸戦争では、効率的な「ロジスティクス」なくして勝利は不可能でした。一方、第二次世界大戦の日本軍の敗因はこのロジスティクス機能を無視したからです。
■ このロジスティクスの概念は、即、科学研究の世界にも通用します。今までの、科学立国を目指す日本では、欧米に追いつけ追い越せで(1)のみを重要視し、科学を推進してきました。しかし「ロジスティクス」の基本概念のない日本が一時的には成果を出したように思えても、その足場となる科学を支える知的資源の基盤作りが全く遅れている状態では、実のない穂のごとしでした。日本の科学立国の構造は机上の空論でしかありませんでした。以上、バンク事業を充実することはロジスティクス機能の推進を意味し、この事業の基盤体制造り無しには科学研究の推進はありえません。最近になってようやく国は国策として知的基盤整備に目を向ける様になってきました。しかし、整備の道は遠い感があります。
■ バンク事業に従事している私達は研究を専門にしている研究者からは蔑視され、差別を受けてきました。しかし、戦略的であらねばならないバンクを運営する「バンク事業人(バンカー)」となることは、単に研究者である以上に大変難しい事である事を知って頂きたいと思っています。この点を理解してくれている人は理研内でも大変少ないのが現状です。
■ (1)と(2)の機能を円滑に作動させるためには、研究者のニーズを正確に知り、彼等の研究内容を充分に理解でき、さらにそれらを踏まえてより良いリソースを開発する、またその品質検査、そしてこれに必要な技術開発を推進することが大切です。
■ 「技術開発なくしてバンク事業の成功はありえない」というのが私のモットーであり、そのためにも「研究者」が「バンク事業人(バンカー)」へと成長する必要があります。バンク事業人育成とロジスティクス機能の充実、その基盤体制造りが将来の我が国の科学研究の成功の鍵をにぎっていると思います。日本の科学立国としての証明はロジスティクス精神を有した研究者=バンク事業人(バンカー)の育成にかかっている訳です。
■ そこでわれわれは、そのための努力を続けていこうと思います。そして研究支援ではなく、自ら新しいリソースを開発する研究先導能力を有する人材育成にも目を向けていこうと思います。 (KKY)

========================================================
■■■ DNAバンクのちょっとした話し ■■■
========================================================
■ プラスミドが増えたり増えなかったりという経験はありませんか?3 ml の少量培養ならDNA がとれるのに、それを大量培養するとプラスミドの収量がとても少ない。同じ問題は、あるプラスミドクローンのovernight culture を培養し直した時に起こりました。全くDNA が無いわけではないのですが、大量培養にしては量が少ない。しかし、overnight culture そのものではプラスミドDNA がある程度は取れている。前培養をするとDNA の収量が減る。それはなぜか?もしかしたら、いったん菌が増えきったらプラスミドが脱落していくのではないだろうか?
■ そう考えて、log phase で増やし続ければ問題は起きないのではないだろうか、という前提のもとで実験しました。
■ 08:00、プレートのsingle colony を4 ml の培地に植え付けました。
■ 12:00、そこから100 ul ずつ5本の2 ml 培地に植えました(前培養)。
■ 13:30から1時間おきに、それぞれから100 ul 取り、2 ml の培地に植えました(本培養)。 前培養3.5時間で菌の増殖は最大に達しました。
植え付けた時刻とその時のOD は、
1 13:30 0.255
2 14:30 0.680
3 15:30 0.792
4 16:30 0.840
5 17:30 0.799
■ 23:30、それぞれからDNA を調製しました。ゲルイメージは下記にあります。

■ 前培養の増殖が最大に達した菌(4と5)を植え付けた場合は、増殖途中の菌を植え付けた場合(1から3)に比べ、DNA の収量が少なくなりました。このとから、増殖しきった前培養を植え付けた場合は、DNA の収量が少なくなることが分かりました。
■ DNA 調製のための大腸菌培養時間に違いがありますが、一番遅く植え付けた場合でも6時間の培養時間があります。12:00にはじめた前培養は、本培養と同じく100 ul を2 ml の培地に植えていますが、3.5時間で菌の増殖が最大に達していますので、6時間の培養時間は、菌の増殖に十分な時間を経過していると思います。従って、菌の増殖の差がDNA の収量に反映されたわけではないと考えています。
■ プラスミドを大腸菌から調製する場合、菌は増殖させ過ぎずにDNA を調製することが大切であることが分かります。もちろん全ての場合にあてはまるわけではありませんが、いつもうまく行くDNA 取りが急にうまく行かなくなった場合には、このお話を思い出して下さい。(TM)

========================================================
■■■ 論文紹介 ■■■
========================================================
■ Seo et al., Effective gene therapy of biliary tract cancers by a conditionally replicative adenovirus expressing uracil phosphoribosyltransferase: significance of timing of 5-fluorouracil administration. Cancer Res. 65: 546-552 (2005).
■ 胆道癌治療における制限増殖型アデノウイルスの効率上昇のために、AxE1CAUP ― 5-fluorouracil (5-FU) を5-fluorouridine monophosphate に変換し5-FU の細胞傷害性を増強するuracil phosphoribosyl-transferase (UPRT) 搭載制限増殖型アデノウイルスベクター ― のin vitro ならびにin vivo での効率を解析した。胆癌細胞においてAxE1CAUP は、AxCAUP ― UPRT を搭載した非増殖型アデノウイルスベクター ― より効率良く複製し、増強したUPRT の発現を示した。AxCAUPとAxE1AdB ― UPRT を搭載しない制限増殖型アデノウイルスベクター ― が胆癌細胞の5-FU に対する感受性を若干増強したことに対し、AxE1CAUP は、特に5-FU 処理のタイミングを適切に選んだ時に、感受性を劇的に増強させた。AxE1CAUP はヒト正常繊維芽細胞WI-38 では5-FU に対する感受性に影響を与えず、その増殖能も低かった。胆癌細胞を皮下移植したヌードマウスで、AxE1CAUP/5-FU i.t. 治療群では、AxCAUP/5-FU ないしAxE1AdB/5-FU 治療群に比べ、腫瘍増殖に対して有意に強い抑制が観察された。さらに、胆癌細胞腹膜播種モデルマウスでは、ウイルス投与後10ないし15日に5-FU を投与した場合、AxE1CAUP はi.p. により効率良く腫瘍細胞で増殖し、腫瘍負荷を減少させ、マウスの生存を延長させた。その一方で、それより早い時期の5-FU の投与開始ではこのウイルスベクターの早期の消滅を引き起こし、マウスの生存の延長が見られなかった。本研究では、UPRT を発現する制限増殖型アデノウイルスはUPRT 搭載非増殖型およびUPRT を搭載しない制限増殖型アデノウイルスベクターに比べ、胆癌の5-FU に対するより有力な増感受性剤であることを示した。また、アデノウイルス感染と5-FU 投与のタイミングが最大限の効率を引き出す重要な要素であることを示した。5-FU 投与時期が適切に管理された本遺伝子治療は、胆癌の5-FU に対する耐性を克服するために有効であろう。(TM)
■ 利用した遺伝子材料
AxE1CAUP (RDB 2031)
AxCAUP (RDB 1743)
AxE1AdB (RDB 2048)
AxCALacZ (RDB 2726)
_____________________________________________
■メールニュースの配信について
○本メールニュースは利用者の申込みに基づき配信しております。メールニュースの購読を申込まれていないにも関わらず配信されている場合は、遺伝子材料開発室分譲係 ( dnabank@brc.riken.jp ) まで「メール ニ ュース不要」の旨をご連絡下さい。
○本メールニュースの購読を中止されたい場合は、https://www.brc.riken.jp/lab/info/catalog/ の「利用者登録」または「メールニュース簡易登録」にてメールニュースの購読中止の設定をして頂くか、遺伝子材料開発室 ( dnabank@brc.riken.jp ) まで「メールニュース不要」の旨をご連絡下さい。
○個人情報の取扱いについては、下記に詳細がありますので、ぜひ、御一読ください。
https://www.brc.riken.jp/inf/distribute/inform.shtml
○当メールニュース受信者各位機関のサーバーメインテナンス等によりメールニュー スをお届けできない場合でも、メールニュースの再発行は行いません。発行済みのメ ールニュースは当開発室のwebサイトで公開しておりますのでそちらをご覧下さい。
https://www.brc.riken.jp/lab/dna/ja/news/news.html
○当メールに記載された内容は予告することなく変更することがあります。
○当メールに掲載された記事を許可なく複製・転載することを禁止致します。
-------------------------------
発行
理化学研究所・バイオリソースセンター
遺伝子材料開発室
dnabank@brc.riken.jp
https://www.brc.riken.jp/lab/dna/ja/
_____________________________________________

2005.07.30



コメントは受け付けていません。