プロトコールとQ&A

Lentivirus Vector


プロトコール

  • Lentiviral Vector Preparation (pdf) [in English / in Japanese]
  • Lentiviral Vector for RNAi (pdf) [in English / in Japanese]
  • Lentiviral Vector for Inducible RNAi (pdf) [in English / in Japanese]
  • Transduction of Human Hematopoietic Stem Cells (Miyoshi, H. Gene delivery to hematopoietic stem cells using lentiviral vectors. Methods Mol. Biol. 246:429-38, 2004. PMID: 14970608)

レンチウイルスベクターQ&A

(三好浩之博士による)

 レンチウイルスベクター全般に関しましては、以下の総説をご参考下さい。

  • 三好浩之:レンチウイルスベクター 最新医学 幹細胞研究の最近の進歩(最新医学社)Vol. 64 (3月増刊号), 232-242 (2009).
  • 三好浩之:レンチウイルスベクター バイオ医薬品の開発と品質・安全性確保(エル・アイ・シー), 612-625 (2007).
  • 三好浩之:蛍光タンパク質遺伝子導入法 レンチウイルスベクターによる導入 バイオテクノロジージャーナル(羊土社)7, 97-105 (2007).
  • 三好浩之:遺伝子導入法(レンチウイルスベクター) 実験医学(別冊) 免疫学的プロトコール(羊土社), 127-137 (2004).
  • 三好浩之:レンチウイルスベクターを用いた造血幹細胞への遺伝子導入 ウイルス Vol. 52, 225-231 (2002).
  • 三好浩之:レンチウイルスベクターによる非分裂細胞への遺伝子導入 細胞工学(秀潤社) Vol. 20, 1234-1242 (2001).

 作製方法については、まず日本語のプロトコールをご覧下さい。

 レンチウイルスベクターの遺伝子組換え実験レベルについては、「レンチウイルスベクターについて」をご覧下さい。

Q1 ベクターに挿入できるインサートの大きさはどれくらいまででしょうか?

A1 三好博士によると、約8kbまで挿入できることを確認していますが、インサートが大きいとtiterは落ちます。他のグループの論文(Hum Gene Ther 12: 1893-1905, 2001)では16kbくらいの大きさまで入るという報告がありますが、やはりtiterは落ちるようです。

 また、ベクタープラスミドのサイズが大きいため、サブクローニングが難しいかと思いますので、Gatewayのベクターのご使用をお勧めいたします。

Q2 Transfectionの時、CO2インキュベーターを3%にするのはなぜ?

A2 リン酸カルシウム法に関しましては、Mol Cell Biol 7: 2745-2752 (1987)を読んでいただければ詳しく出ています。10%と5%ではtransfectionの効率に大きな差がありますが、5%と3%では3%の方が多少よい程度です。インキュベーターに余裕あれば3%をお勧めします。

 Lipofectamineなどのリポソーム法でも問題はありませんが、リン酸カルシウム法で293Tに100%入りますので、安くて経済的です。

Q3 Transfectionの際、Forskolinの役割は?

A3 Forskolinはadenylate cyclaseを活性化してcAMPが増加しPKAを活性化することにより、間接的にCMVプロモーターに働き、CMVプロモーターの転写活性をあげます。多くのプラスミド(特にベクター)はCMVプロモーターでドライブしていますので、Forskolinを加えることによりtiterが上がります。

Q4 cPPTとは?

A4 レトロウイルスは逆転写の際、3’LTRの直上流にあるPPT(polypurine tract)配列からプラス鎖の合成が始まるが、HIV-1にはゲノムの中央部分にcPPT(central polypurine tract)と呼ばれる同じ配列がもう一カ所あり、ここからも合成が行われるため、最終的な二本鎖cDNAには中央にDNAフラップと呼ばれる約100塩基対の3本鎖構造ができる。cPPT配列は逆転写の効率に影響を与えることが示唆されており、cPPT配列をベクターに組み込むことにより、遺伝子導入効率が高くなるといわれています。

Q5 WPREの役割は?

A5 WPRE(woodchuck hepatitis virus posttranscriptional regulatory element)は、mRNAの核から細胞質への能動的な輸送と細胞質でのmRNAの安定性を高める役割があるとされています。この配列をベクターに組み込むことにより、titerおよび導入遺伝子の発現効率が上がることが報告されています。

Q6 SINベクターとは?

A6 SIN(self inactivating)ベクターは、3’LTRのU3にあるエンハンサー/プロモーター領域を削除してあります。ベクターRNAは細胞に感染後、逆転写の過程で3’LTRのU3が5’LTRのU3にコピーされるので、SINベクターの場合、染色体に組み込まれるベクターDNAのLTRは両方ともプロモーター活性を持たないことになり、安全性の高いベクターとなっています。詳しい説明は、「レンチウイルスベクターについて」を参照してください。

Q7 パッケージング細胞はないのか?

A7 パッケージング細胞はありますが、pol遺伝子にコードされているプロテアーゼやVSV-Gの発現が細胞にとって毒性が高いので、これらの遺伝子がベクターを産生させる時だけ発現するようにtet inducible systemを使っています。しかし、通常のラボでの解析目的に使用する量のベクターを得るためには、その扱いが煩雑すぎるのであまりお勧めしておりません。同じベクターが大量に必要な場合には、パッケージング細胞にVector plasmidをtransfectionしてstable lineを樹立した方がよい場合もあります。

Q8 ベクタープラスミドにはZeocin耐性遺伝子が組込まれていますが、細胞にウイルスを感染させた後のtransformantのselectionに使用可能でしょうか?

A8 Zeocin耐性遺伝子はLTRの外側にありますのでウイルスゲノムには含まれません。従いまして、ウイルス感染細胞をZeocinでselectionすることはできません。大腸菌でのselectionまたはプラスミドをパッケージング細胞にtransfectionしてstable transformantをとるためのselectionに使用します。

Q9 超遠心以外でウイルスを濃縮する方法はないのか?

A9 Centricon Plus-70 Ultracel-PL 100,000 NMWL (Millipore)を使って濃縮(70ml→350μl)、あるいはAmicon Ultra-15 100,000 NMWL (Millipore)を使って濃縮(15ml→200μl)することができる。さらに、Microcon Ultracel YM-100 (Millipore)を使って濃縮すると最終50μlくらいまで濃縮できる。濃縮してボリュームが減るたびに上からウイルス液を追加すればいくらでも濃縮できるはずです。遠心を繰り返せば時間もかかりますし、これらのフィルターユニットは高額ですが・・・。また、この濃縮方法では培養液の成分(特にFBS)の持ち込みがあるので、その後の培養系に影響のありそうな時は、2、3回HBSSなどを足して遠心を繰り返してwashしたほうがよい。しかし、完全には培養液の成分を除けないので、注意が必要である。タカラバイオから発売されているLenti-X Concentratorでも約100倍に濃縮可能なようであるが、やはり高額であり、多少の培養液の成分の持ち込みを考慮する必要がある。

 三好博士によると、まず超遠心で濃縮して、500μlのHBSSに懸濁した後、Microcon Ultracel YM-100を使って50μlくらいに濃縮しています。濃縮度を上げたいまたは培地成分を完全に除きたい場合には、超遠心を2回繰り返す方がよいと思われます。

Q10 VenusはGFPはどう違うのか?

A10 VenusはEYFPのVariantで、理研BSIの宮脇敦史先生により開発されました(Nat Biotechnol 20: 87-90, 2002)。細胞にもよりますが、VenusはEGFPやEYFPよりも数倍から10倍くらい明るく、蛍光顕微鏡やFACSではEGFPと全く同様に扱えます。IRESベクターでは、IRESの下流の遺伝子の発現がかなり低くなりますので、Venusを使用することをお勧めします。

Q11 導入遺伝子の発現レベルが低いのですが。

A11 レンチウイルスベクターでは、組み込んだ遺伝子の発現に内部プロモーターを使用するので、標的細胞において高発現のプロモーターを内部プロモーターとして使用することが重要です。CMV、EF-1α、UbC、CAGプロモーター等での比較や、組織特異的なプロモーターの使用をご検討下さい。

 また、遺伝子導入効率が悪い場合には、細胞毒性のでない範囲でMOI(multiplicity of infection)を上げて下さい。

Q12 レンチウイルスベクターによるsiRNAの発現レベルは?

A12 レンチウイルスベクターは、レトロウイルスベクターもそうですが、single integrationですので、発現量があまり高くないのが問題となります(H1またはU6 promoter)。したがって、endogenousのtarget geneの発現量が多い場合には、ノックダウンの効果が弱くなります。MOIを上げてmultiple integrationにすることによりある程度解決しますが、やはり発現プラスミドのtransient transfectionに比べると弱いようです。また、3’LTRにsiRNA発現unitを挿入したベクター(コピー数が2になります)でも、基本的にあまり効果は変わりません。いずれにしても、よく利くtarget siteを選ぶことは重要です。

Q13 マクロファージへの遺伝子導入効率が悪い

A13 第3世代packaging plasmidでは、vpr欠損のため、マクロファージへの遺伝子導入効率が他の細胞と比べて1桁近く下がります。vprを含むすべてのaccessory geneの入ったpackaging plasmidを使用するか、MOIを上げることにより解決されると思います。また、マクロファージで高発現のプロモーターを内部プロモーターとして使用することも重要です。


レンチウイルスベクターについて

レンチウイルスベクターは、故三好浩之博士がSalk研究所(Dr. Verma Lab.)でその開発に携わり、その後、理研でベクターシステムの改良改変を重ね、現在に至っております。

平成16年2月より施行された新しい省令(研究開発二種省令)における微生物等の分類で、Human immunodeficiency virus 1型の増殖力等欠損株がクラス2に分類されたことにより、三好博士が開発したレンチウイルスベクターはP2レベルでの機関実験が可能になっています。
詳細は、文部科学省 ライフサイエンスの広場のライフサイエンスにおける安全に関する取組の「遺伝子組換え生物の第二種使用等について」およびポジションペーパーをご覧下さい。

文部科学省 ライフサイエンスの広場

(MAN0034j)

2024.03.06



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