Luciferase assayのコツ

Luciferase assayのコツ

■ プロモーターバンク事業では未公開分を含めて、これまでに584通りのルシフェラーゼアッセイを行いました。これまでのアッセイを通じて経験した細胞の取り扱いについて述べます。
■ 使用したすべての細胞にいえることですが、transfectionの当日に密度が70~90%になるよう細胞を播種することで遺伝子導入効率を上げることが出来ました。またtransfection後の培地交換は、極力細胞にストレスを与えないように慎重に行うとよいでしょう。PBS(-)で洗浄を行うよう指示するプロトコールもありますが、これを行うことで細胞がダメージを受けて浮遊してしまい、アッセイをしようとした時(ここではtransfectionより48hr後)には細胞が死滅しているということもあるので注意する必要があります。細胞が浮遊してしまってもアッセイをしてみるとルシフェラーゼ活性を測定できることもありますので、最適な条件を検討した上で接着細胞が減ってしまっても諦めずにアッセイしてみることをお勧めします。
■ 各細胞ごとの継代時、アッセイ時の注意点は下記の通りです。また、分化実験を行った場合は培養条件と参考文献を付記しました。
■ HeLa: 比較的容易に培養できた。
分化用培地の組成と方法: [1]+20% FCS: Transfectionより6hr後、通常培地にmedium change (以下MC)し、さらに30min後MC (DMEM + 20% FCS)。[2]+TNFα: Transfectionより6hr後MC (DMEM + TNFα 1ug/mL)。
参考文献: [1]M. Kurabayashi. et al. (1995): Sequences of the 5′-flanking region of the human helix-loop-helix protein-encoding Id2A gene, and promoter activity regulated by serum and c-Jun/AP-1. Gene 156, 311-312. [2]C. Y. Ito et al. (1994): Three NF-κB sites in the IκB-α promoter are required for induction of gene expression by TNFα. Nucleic Acids Res. 22, 3787-3792.
■ HepG2: 剥がれにくく集塊を形成しやすい細胞なので、トリプシン処理を行ったあとにピペッティングをよく行い、細胞を分散させてから播種するとよい。
分化用培地の組成と方法: [1]+dexamethasone: Transfectionより6hr後MC (MEM + dexamethasone 1 uM)。[2]heat shock: Transfectionより1hr後medium addition。さらに5hr後MC +42℃ incubation。[3]+CoCl2: Transfectionより6hr後MC (MEM + CoCl2 150 uM)。Transfectionより24hr後Assay。
参考文献: [1]H. Nakabayashi. et al. (1989): Transcriptional regulation of α-fetoprotein expression by dexamethasone in human hepatoma cells. J. Biol. Chem. 264, 266-271. [2]R. C. Smith et al. (2002): Spatial and temporal control of transgene expression through ultrasound-mediated induction of the heat shock protein 70B promoter in vivo. Human Gene Ther. 13:697-706. [3]E. Minet et al. (1999): HIF1A gene transcription is dependent on a core promoter sequence encompassing activating and inhibiting sequences located upstream from the transcription initiation site and cis elements located within the 5′ URT. Biochem. Biophys. Res. Commun. 261, 534-540.
■ HEK293: 細胞培養用のノンコートディッシュでも培養可能であるが、接着力が弱く剥がれやすい。どうしても剥がれてしまう場合にはコラーゲンコートのディッシュを使用するとよい。
■ Saos-2: 長期継代すると不規則な形態を示す細胞が現れる場合があった。
分化用培地の組成と方法: serum starvation: Transfectionより6hr後MC (McCoy’s 5A + 0.5% FCS)。Transfectionより24hr後Assay。
参考文献: A. Zaika. et al. (2001): Oncogenes induce and activate endogenous p73 protein. J. Biol. Chem. 276, 11310-11316.
■ MCF-7: 長期継代すると性質が変化するため、アッセイにはなるべく継代数の少ない細胞を使用する。
分化用培地の組成と方法: +progesterone: Transfectionより6hr後MC (DMEM + progesterone 10 ug/mL)。
参考文献: K. Nishida et al. (1997): Indentification of regulatory elements of human α6 integrin subunit gene. Biochem. Biophys. Res. Commun. 241, 258-263.
■ B16: pHが下がりやすいので、細胞密度の高い状態が続かないようにする。
■ NIH3T3: 飽和密度になると接触阻害を起こすため、継代は細胞同士に隙間があるうちに行う。
分化用培地の組成と方法: serum starvation: Transfectionより6hr後MC (DMEM + 0.5% FCS)。Transfectionより24hr後MC (DMEM + 10% FCS)。
参考文献: J. Schaley et al. (2000): Induction of the cellular E2F-1 promoter by the adenovirus E4-6/7 protein. J. Virol. 74, 2084-2093.
■ WI38: 有限の寿命しかもたないので、飽和密度にならなくなったら増殖期が終了したと判断し、アッセイには使用しない。
■ C2C12: 比較的容易に培養できた。
分化用培地の組成と方法: [1]+DM: Transfectionより6hr後MC (DMEM + FCS-, insulin 10 ug/mL, transferrin 10 ug/mL)。[2]+2% horse serum: Transfectionより6hr後MC (DMEM + horse serum 2%)。
参考文献: [1]H.-S. Kwon et al. (2004): Protein kinase B-α inhibits human pyruvate dehydrogenase kinase-4 gene induction by dexamethasone through inactivation of FOXO transcription factors. Diabetes 53, 899-910. [2]M. M. Katabi et al. (1999): Hexokinase type II: a novel tumor-specific promoter for gene-targeted therapy differentially expressed and regulated in human cancer cells. Hum. Gene Ther. 10, 155-164.
■ CHO-K1: 比較的容易に培養できた。
■ COS-7: トリプシン処理をしすぎると付着率が低下するので注意。
■ F9: 長期間の培養で性質が変化することが多かったため、継代は一定の条件で行う。コラーゲンコートのディッシュを使用することで細胞の生存率が上がる。
分化用培地の組成と方法: +RA: Transfectionより6hr後に通常培地にMCし、さらに30min後MC (DMEM + retinoic acid 5 uM)。Transfectionより72hr後Assay。
参考文献: J. P. Donahue et al. (1994): The integrin αv gene: identification and characterization of the promoter region. Biochem. Biophys. Acta 1219, 228-232.
■ LNCaP.FGC: 接着力が弱く、非常にはがれやすかったのでコラーゲンコートのディッシュを使用する。Transfection後の培地交換は特に剥がれやすい。膜状に一気に剥がれてしまうので注意が必要。
分化用培地の組成と方法: +dexamethasone: Transfectionより24hr後MC (RPMI1640 + dexamethasone 10 uM)。
参考文献: H. Uemura et al. (1995): Identification of a new enhancer in the promoter region of human TR3 orphan receptor gene. J. Biol. Chem. 270, 5427-5433.
■ MIN7: 接着に時間がかかり、接着力も弱いのでtransfectionの際は早めに細胞を播種しておく。
■ MtT/SM: 半浮遊細胞であり接着力が弱いので、コラーゲンコートのディッシュを使用する。球状の細胞が塊になって増え、多少塊が分散しにくいが細胞が痛みやすいので無理にほぐさなくてよい。
■ NEC8: 接着に時間がかかり、接着力も弱いのでtransfectionの際は早めに細胞を播種しておく。浮遊した細胞塊も生細胞である。
■ PC12: 接着力は弱いがコラーゲンコートのディッシュを使用すると生着が非常によくなった。アッセイ時、神経系に分化させる際にはポリリジンコートプレートを使用する。
分化用培地の組成と方法: +NGF: Transfectionより6hr後に通常培地にMCし、さらに30min後MC (DMEM + NGF 100 ng/mL)。
参考文献: M. Mbikay et al. (2002): Characterization of a repressor element in the promoter region of proprotein convertase 2 (PC2) gene. Mol. Brain Res. 102, 35-47.
■ IEC6: 他の細胞と同様の条件でLipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いたtransfectionでは細胞が死滅していまい、ルシフェラーゼ活性も測定できなかった。
■ K562: 浮遊細胞でありtransfection後の培地交換で細胞も吸ってしまう可能性があるで、培地添加に変更しアッセイ時に不必要分の上清をとり除くほうがよい。
分化用培地の組成と方法: +TPA: Transfectionより6hr後medium addition (RPMI1640 + TPA f.c. 50ng/mL)。
参考文献: M. Villa-Garcia. et al. (1994): Isolation and characterization of a TATA-less promoter for the human β3 integrin gene. Blood 83, 668-676.
■ 以上のtransfectionはすべてLipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いて行いました。リン酸カルシウム法等、他の方法でtransfectionする場合には培養条件が異なる場合があります。予備実験を行い適切な条件を探して下さい。
■ アッセイに使用した細胞のうちMIN7は宮崎純一先生(大阪大学大学院医学系研究科)よりご供与していただきました。この場をお借りしてお礼申し上げます。またHela、CHO-K1、 MtT/SM、NEC8、IEC6は理研 BRC 細胞材料開発室、MCF7は(財)ヒューマンサイエンス振興財団 研究資源バンク、HEK293、LNCaP.FGCはATCCより入手いたしました。(M.H. & M.Y.)

(Mail News 2006.02.24 掲載記事より)



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